再び、石原慎太郎様

石原慎太郎

統一地方選が終わって、もう一月がたちました。あなたがせっかく下北沢までおいでになって応援された自民党公認都議会議員候補は落選し、あなたの忠実な従僕のような世田谷区の熊本区長は、どうにか再選は果たしたものの、その得票は有効投票総数の半数を大きく割り込むものでしかなかった……といった経緯については、詳しくは論じないことにしましょう。

ここでは、放置しておけば取り返しのつかない結果を招くことが確実な、圏央道と高尾山が関わる区間の事業について、緊急な提言をしておきたいと思います。

先日私は、レジャーも兼ねて、高尾山とその周辺の現況を確認してきましたが、圏央道は、中央高速に接続する部分まではほぼ工事が済みつつあります。しかし、その先の、問題となっている高尾山にかかる部分は、もちろん調査の手は入っているはずですが、本工事はまだ始まっていませんでした(5月初旬時)。ですから、都民の貴重な財産である高尾山を守るために何か手を打つとすれば、「まだ間に合う」と同時に、今が最後のチャンス……だといってよいでしょう。

では、何をどうすべきなのか、を述べましょう。

まず、上述したような工事の進捗状況から見て、あきるの市方面から中央高速に接続する部分までの区間については、(トンネルを掘ったことが原因で、史跡である八王子城跡にあった滝が涸れてしまうという影響も出ているようですが)大きな変更は難しいことを認めるしかないでしょう。しかし、中央高速以南のルートについては、今からでも十分に変更は可能ですし(不可能だとするのは、役人のタテマエでしかないでしょう)、ぜひとも変更すべきです。

最初に、圏央道と中央高速の接続は、必ずしも直交しなくてもよい…ということを理解していただく必要があります。

つまり、地図上で中央高速を水平軸に見立てた場合、その上下は一直線につながる必要はなく、左右にずれた「雁行型」であっても、まったく(あるいは、ほとんど)支障はないのです。むしろ、上下方向(つまり圏央道を直行する車)の交通量だけが際立って多いというケースを別にすれば、接続点を左右にずらすことで、周辺の工事もコンパクトに済むなど、メリットの方が大きいかも知れません。

具体的には、この高尾山にかかる区間については、下の方の接続点を上方の接続点から約1km強右、つまり東にずらす……というのが、ここでの回答です。この変更によって、高尾山の本体(山体)に巨大なトンネルを掘るという愚行・蛮行は避けることができますし、圏央・中央両道の接続にも、まったく支障は生じません。誤解があるといけませんので付記しておきますが、圏央道を直行する車は、上下両方向のいずれからだろうと、いったん中央高速に平行して(上下も含む)走行させ(その分、この区間の車線を若干増やすか、上下の二層構造にする必要はあるでしょう)、その後、上下に「逃がせ」ばよいだけです。

将来のこととして、もし圏央道(から中央道に入らずに)を直行する車の交通量が際立って多くなって、交通の円滑性に問題が出るとすれば、この東にずらしたポイントに接続するように、大きく中央道の地下をくぐるような直行用のトンネルを作ればよいだけのことです。

この区間の圏央・中央両道からの一般道への出口(=一般道からの入口)ですが、これは、現在工事中の中央道北側の接続点の部分の用地に計画されているものと思います。あの一帯の地形では、巨大な自然破壊をせずに出口(入口)を設けるとすれば、あの場所と、もう一カ所は、東にずらしたポイントの南方(圏央道沿い)しかなさそうですし、逆に、この二カ所に作れば十分でしょう。

――以上の案につき、都の技術系の官僚諸氏に対してではなく、まず、官僚諸氏の思惑に左右されることはないと確実視できるような有識者(は稀れでしょうが)に打診してみていただきたいと思います。そして、石原案として、以上をぜひ国交省に提案していただきたいと思います。……あなたは圏央道の早期完成を主張されていますが、そのためには、以上のような柔軟な案を検討し提案することこそが最短の道であることは疑いありません。

いずれにしても、高尾山一帯の自然の豊かさ・貴重さは都内でも指折りのものであり、地球温暖化が大きな問題になっているこの時代に、そこを破壊することが明らかな巨大な土木工事を行うことを黙認するなどということは、どうあっても許されるものではないと考えます。

実際には、現行の計画では、年間では数十万規模の利用者がある高尾山の主な登山道のほとんどすべてが通行不能になることも予想されるなど、単なる自然の破壊だけではない、巨大な文化破壊にもなるといった問題も、まともに議論さえされていないようで、その野蛮さには、ただただ驚くしかありません。

本来、この問題については、環境省が何らかの手を打つべきでした。しかし、環境省にとっては、圏央道のような巨大な公共事業は、依然として「聖域」以外の何物でもないということなのでしょう。その腑甲斐なさに呆れてしまうと同時に、やはり、あなたのお人柄には、憎みきれず愛すべき面があることを思い起こし、一文をしたためてみた次第です。

どうぞご検討下さい。

敬具

#行政側の対応をはじめとするこの問題全体の経緯については以下に詳しい。
一読をお勧めしたい。
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200606101151436