『桜島』に喝采!!

芋焼酎が好きだ。

といっても、それほど大量に飲むわけではないし、飲んだことのある銘柄(ブランド)も、それほど多くはない。熱烈な愛好家のいるこの世界では、せいぜい中級者といったところだろう。ただし、自分なりのこだわりはある。

それは、無闇に世評に追随せず、自分の鼻や舌を信頼し、手頃な価格で飲み心地のよいものを焦らずに探し出すということだ。

この「手頃な価格で」というところは、自分のフトコロ具合から来る当然の制約でもあるのだけれど、芋焼酎というものの魅力の根幹にもかかわることであると思う。というのも、芋焼酎は一部の愛好家のためだけにあるのではなくて、やはり庶民の酒、大衆のための酒であることが基本であるに違いないからだ。そして、手頃であるにもかかわらず、1本1本、実にバラエティに富み、形容に窮するほどに味わい深いものも少なくないことに、あらためて驚かされることが多い。

もっとも、ざっと30年ほども前に首都圏で流通していた芋焼酎といえば、匂いも味も実に強烈で、何度かチャレンジはしてみたものの、あっけなく敗退して、グラス一杯を満足に飲み干すこともできずに退散することも多かった。あるいは、“本場”である鹿児島や宮崎では、あの時代にももっとまろやかなものも飲まれていたのではないかとも思うのだが、どうなのだろう?ともかく、芋にかぎらず、近年、焼酎類の酒質が目覚ましく向上しているのはたしかなようで、日本全国でその恩恵に浴することができるようになってきたのはうれしいことだ。

さて、そこで『桜島』だけれど、以前から「一度飲んでみよう」と思いつつ、つい後回しにしていた。よく知られたブランドで、広く出回っているので、「それなり」のものだろうと軽視していたのかも知れない。けれど、先日、平成18年度の鹿児島県の「鑑評会」で「総裁賞」を受賞したことを告げるタグを付けて売っていたので、よい機会だと思って5号ビン(900ml入り)を1本買い求め、このほど飲んでみて、驚いた(ちなみに、『桜島』は鹿児島市に本社のある本坊酒造のブランドで、白麹で仕込んだ白いラベルのものと黒麹で仕込んだ黒ラベルのものがあるが、今回「総裁賞」を受賞したのは黒ラベルの「黒麹仕立て」の方だ)。

まず、ストレートでグラスに少し注いでみると、苦甘いような芋焼酎独特の芳香がプンと立ち昇る。この香りが実にいい。そして口に含むと、味わいはかなりシャープで、くっきりとした輪郭があるのだけれど、かといって決して痩せぎすではなく、とてもしっかりしたボリュームが感じられる。度数は25度なのに、まるで高級なブランデーのようでもあって、文句なしに旨い!

……賞をとったといってもアテにならない場合も多いのだけれど、この「総裁賞」にはすっかり納得した。それどころか、“本場”の人たちの凄みを感じて頭を下げたくもなる。というのも、この『桜島』の「黒麹仕立て」は5号ビンでも1000円札でおつりがくるようなれっきとした「レギュラー品」なのだ。それでいて味わいにこれほどの豊かさと複雑さがあるのは、ちょっとただ事とは思えない。

おそらく、味の骨格に大きな変化はないにしても『桜島』も年々進化し続けていて、それが去年ついに頂点に達したということではないのか、と個人的には思っている。そう思いたくなるほど、この「黒麹仕立て」にはパワーがある。まだ飲んだことがないという方には、ぜひお飲みになってみるようオススメしておきたい。

あまり芋焼酎を飲んだことがないという方には、とくにこの時季には、まず水割りで飲んでみてほしい。それも、よくあるように氷と水で割るのではなく、氷は抜きで、まず、よく冷やしたミネラルウォーター(キリンの「アルカリイオンの水」がオススメ)をグラスに注ぎ、その上から好みの分量だけ焼酎を注ぐと、きっととてもおいしく飲めるだろう。水と焼酎の割合いは7:3でもいいし、8:2でもかまわない。よい芋焼酎に共通する特徴なのだけれど、それだけ薄めても十分に味わいがあるのが、この『桜島 黒麹仕立て』の凄さだから――。

ただし、くれぐれも、飲みすぎには注意しましょう。

飲酒運転なんてもってのほかであることも、言うまでもありません。

ブームはやや下火になってきたとはいえ、一部の銘柄の「プレミアム化」は多くの問題をはらんでいる。この人の発言には教えられることが多い。
http://www.kt.rim.or.jp/~wadada/cyokayume/satumacyaya.html

本坊酒造のホームページ http://cgi.hombo.co.jp/