愚にもつかない……

このほどの参院選で、安倍政権に国民からの審判が下った……はずなのだが、改選された121議席の内、政権与党である自民・公明の両党が獲得したのは合わせて46議席にすぎないという歴史的な大敗だったにもかかわらず、安倍首相は頑なに辞任をこばみ続けている。

安倍氏は「美しい国づくり」を政権のキャッチフレーズとしてきたわけだが、参院選後の彼の行動や言動のどこに「美しさ」があるというのだろう。彼が続投の理由として述べていることも、まったく説明になっていない。

だが、私がここで述べておきたいのは、このことではない。

安倍首相は、この6月にドイツのハイリゲンダムで開かれた主要国首脳会議(サミット)に先立って、CO2などの温室効果ガスの排出量を、2050年までに世界全体で現状から半減させることを骨子とする「美しい星50」というプランを発表し、サミットでもこのプランについて盛んにアピールした。

しかし、いったいこのプランにはどれだけの根拠なり裏付けがあるというのか……を私は問題にしたいし、しないわけにはいかない。

地球温暖化問題に関しては、1997年に日本が議長国となって採択に持ち込んだ京都議定書によれば、日本は2012年までに温室効果ガスを1990年比で6%削減するということになっている。議長国だったという立場からも、この目標は国際的に大きな意味をもつ公約になっているといっていい。

しかし、足下の現実は、単に「きびしい」という以上のものだ。今年5月に政府が公表した確定値によれば、2005年のわが国の温室効果ガスの排出量はCO2換算で13億6000万トンだったという。この数値は前年度に較べて300万トン増であり、京都議定書の基準年となる90年に較べても、減るどころではなく逆に7.8%も増加している。よほど思いきった手を打つか、奇跡でも起きないかぎり、この現状に歯止めをかけて「6%削減」を達成するのは不可能だろうと私は思う。

ここで、事情にうとい人は、安倍氏が発表した「美しい星50」こそ、そうした“手”を網羅したものではないのかと錯覚するかも知れない。しかし、7月22日の朝日新聞の「補助線」というコラム(9面、タイトルは「日本の目標が見えない」)も指摘しているように、このプランでは内政上の長期目標も中期目標も明示されていないだけでなく、「削減の手法も不明確」なようだ。とくに、ヨーロッパ諸国で効果が実証されている税制の活用について、まともに検討した形跡さえないのは致命的ではないだろうか――。

ハイリゲンダムサミット後、安倍氏地球温暖化問題についてほとんど発言もしていないことを見ても、そもそも彼にはこの問題についての十分な理解も関心もなく、ただ外交上のポイント稼ぎの手段とか、参院選のためのアドバルーンにしようという程度の認識しかなかったのではないかと思えて仕方がない。

……しかも、話はこれでも終われない。

7月25日付で朝日が報じているところによれば、同日開催された温室効果ガスの削減目標達成に向けた政府計画の見直しについての環境・経済産業両省の合同審議会で、日本の対策が「原発頼み」であることに対して、複数の委員から「批判が続出した」というのだ。

何しろ、政府の現行の計画は87〜88%の原発稼働率を前提としているのだそうだが、実績では03年度は59.7%にまで落ち込み、昨年も69.9%でしかなかったという。そこに、先月の新潟県中越沖地震東京電力柏崎刈羽原発が全面停止し、運転再開のめどさえ立っていないという現状を重ね合わせてみれば、こうした批判が出るのも当然だといっていい。

記事は、政府の素案が「太陽光など新エネルギー導入についても踏み込んでいない」ことについて、ある委員から「こんな消極的な政策は世界でも例がない」との批判も出た、と伝えている。
http://www.asahi.com/special/070110/TKY200707250487.html

まったく、何をかいわんや、である。

安倍氏をトップとする現政府の姿勢は、環境政策の点でも明らかに失格である。「愚にもつかない」という言葉は、まさに彼らのためにあるのではないかと思う。