「下北沢は終わっている」のか?

筆者の知人でもある編集者・批評家の仲俣暁生さんが、1月31日付の自身のブログ「海難記」で少し気になる文章を紹介しているので、ここでコメントしておきたい。

クダンの文章は、「After Hours」http://www.afterhoursmagazine.jp/という雑誌の編集後記の一節らしいのだけれど、そこには「下北沢再開発の反対運動が敗北したのも……」というフレーズがある。

それで、「ちょっと待てよ?」と思ったのだ。

たしかに、一昨年(2006年)の10月18日に、東京都は問題となっている“都市計画道路補助54号線”の建設事業の「認可」を強行し、同日、世田谷区の都市計画審議会が、学識経験者の委員が全員反対意見を表明するという異常な事態の中で、下北沢の街の高層化促進につながる「地区計画案」を強引に採決し承認してしまう……という大きな節目はあったものの、現状は「これにて一件落着!」などという状況とはほど遠いからだ。

そもそも、東京都にとっては、上記の事業の「認可」自体は、ずっと以前から決まっていたことを、関係官庁からの圧力などもあって「粛々と行なった」ということにすぎないだろう(もちろん、その硬直性に驚き、怒ってしかるべきなのだが)し、世田谷区の場合は、その問題解決能力の低さによって「天下に赤恥をさらした」だけだ……というのが筆者の基本的な見解だ。

いずれも、自治体行政のイロハさえ大きく踏み外した大失態以外の何物でもなく、彼らをして「勝者」などと見なすことは、ほとんど狂気の沙汰というべきだろう。

つまり、「反対運動の敗北」などと口にするのはたやすいが、では、下北沢の問題における「勝者」はいったいどこにいるのか?ということについて多少は考えてみるのが、職業的に言説を弄する者の礼儀というものではなかろうか。

すると、誰でも思いつくこととしては、ゼネコンや大手のデベロッパーから中小の不動産業者まで、“その方面”には、「してやったりと思っている向き」も多いのでは?ということも考えられなくはない。

しかし、現在のようににぎわいのある下北沢の街並みをわざわざ破壊して、たかだか数棟の高層ビルを建てる(しかも、それをどこか一社が独占できるわけでもないだろう)……などという何とも“みみっちい”計画が、「業界上げての一大テーマ」だとか「悲願」になるとも思えない。

つまり、業界ネタとしては、要するにこれは、せいぜい「一担当者レベル」の話であり、役所についていえば、まさに、「小役人どもが、またバカなことを……」と形容するのに最適な事例であって(これは推測まじりの一つの見方であって、違う見方をする人間も多いだろうということは承知している)、そんな連中のために下北沢の街をむざむざ破壊されてたまるか……というのが、筆者の率直な気持ちだ。

要するに、「では誰が勝ったのか?」ということを考えると、それは何ともアイマイモコとしてくるし、実は、こんな有様では「誰もが敗者」になってしまう……ということについて、よく考えてみる必要があるだろう。

ここで、質問を一つ。

あなたは、「人間とは、間違いをおかすものだ」ということを認めるだろうか?
……これは、もちろん「イエス」だろう。
では、「行政も、誤りをおかすことがある」は?

そして、今まさに問われているのは、「誤りをおかしてしまったらどうするか」ということなのだ。

もちろん、あの薬害肝炎事件の例を引き合いに出すまでもなく、間違ったことをしでかしてしまったら、まずその誤りを認め、謝罪もしなければ、「抜本的な解決」など、夢のまた夢でしかない。その基本は、一個人であろうと行政であろうと何の変わりもないし、変わりがあっていいはずがない。

下北沢の場合は、100人以上の人間が原告となって「まもれシモキタ!行政訴訟」が行なわれており、東京都や世田谷区はいうまでもなく、国土交通省までも含めた行政の誤りや“いいかげんさ”が法廷で次々に明らかにされつつある。

一方で、今、国会では道路特定財源をどうするのかということが一大争点になっているけれども、冒頭に述べた“都市計画道路補助54号線”が、いわゆる「いらない道路」の典型であることも言うまでもない。

そして、もし国や都や区に自分たちの誤りを認めるだけの責任の意識や度量があるなら、上記の裁判でも和解が成立する可能性は十分以上にある。

だから、ひとまず、国や都や区のお役人どもよ、少しは人間としての基本というものを思い出してみたらどうなんだい?とだけ言っておこう。少なくとも、ウソを並べ立てて平然としているなどというみっともない真似は、もうやめてもらいたいものだ。

現に、当初から予想されていたように、用地の買収さえ遅々として進んでいないようだし、“補助54号線”が計画通りにできるなどという見通しはほとんどなく、下北沢は、まだ全然「終わって」なんかいないし、ただ新たなスタートラインに立とうとしているだけだ……と筆者は思っている。

仲俣さんのブログ「海難記」:
http://d.hatena.ne.jp/solar/

「まもれシモキタ!行政訴訟」については、こちらを!:
http://www.shimokita-action.net/